就活ナビの永遠のテーマ
「馬脚をあらわす」というのであろう。
右で取り上げた材料の配分問題における結託よりも、もう少し複雑な結託も生起しうる。
右の企業が、材料を毎日9個支給するとしよう。
ただし、奇数日には黒丸の材料6個と一重丸の材料3個を支給する。
また偶数日には黒丸の材料6個と二重丸の材料3個を支給する。
「場合1」のように、材料がこの小グループ内で平等に配分されれば、それぞれの労働者は毎日3個の材料を受け取ることになる。
ここでCは一重丸の材料があまり好きでなく、Bは二重丸の材料があまり好きでないと仮定してみよう。
するとBとCの間に次のような合意が密かに成立し、提案されて多数決で決定されることがありうる。
すなわち「奇数日にはBに黒丸の材料3個と一重丸の材料3個を配分し、Cに黒丸の材料3個を配分する。
また偶数日にはBに黒丸の材料3個を配分し、Cに黒丸の材料3個と二重丸の材料3個を配分する」というものである。
この合意は、終身雇用制を所与として、BとCの間に互恵的な関係を長期間維持することを狙ったものである。
この例でも、BとCの結託によって彼らは有利な状態を達成し、Aは不利な状態に陥る。
それだけでなく、結託によってBとCはそれぞれの噌好を最大限に満足させている。
一緒に仕事をする集団が小さくなれば個人の自律性が高まる、といわれることがある。
右で見た2つの例は誤りであることを示している。
集団が小さくなれば、その成員間のコミュニケーション費用が低くなって、一部の成員間に異常に親密な関係が成立する可能性が高まる。
結託形成の費用が低下し、結託が形成されやすくなる。
その結果は右に見たとおりである。
所属する集団が小さく個性的になると、インフォーマルなリーダーによる専横が生じ、個人は個性の自由を保てなくなることもある。
図3‐2に示された問題を若干変形すると、私的関係が公的関係に導入されるメカニズムをみることができる。
ここで公的関係とは企業・官庁などの公式な組織のなかで成立する関係であり、私的関係とはその外で成立する関係である。
私的な行動も戦略に取り入れることができれば、BとCは次のような互恵的な結託を結ぶかもしれない。
すなわち公的関係ではCが、奇数日「場合2」のように、Bに有利な行動をとる。
それに対応して私的関係においてはBが、偶数日「場合2」のように、Cに有利な行動をとる。
換言すれば、先の例ではBとCが互恵的な関係を組織内に限定して成立させたのに対し、ここでは、組織内ではBが、組織の外ではCが有利な状態を達成できる互恵関係が形成される。
現実の社会において、組織の外で他者を有利な状態にする方法はさまざまに存在する。
例としては、盆暮れの付け届け、諸々の形の斡旋、有利な情報の提供、私的労働サービスの提供などを挙げることができる。
図3‐1の問題を応用して、その例と関連した議論をすることもできる。
A、B、Cの三人からなる小組織に、仕事の補助者(1人でも複数でもよいが単純化のために1人としよう)が割り当てられると仮定する(補助者も終身雇用制下にある)。
同図の「支給された材料」が「補助者の労働サービス」に置き換えられたと考えればよい。
A、B、Cのいずれも、補助者の労働サービスを多く使用すれば生産量を増大させ、高い報酬を達成することができる(単純化のために補助者の報酬は一定であるとしよう)。
この場合もBとCは結託して、両者に有利な補助者の使用方法(両者でその労働サービスを折半する方法)を提案し多数決で決めるかもしれない。
先の例と異なっている点は、割り当てられるサービスが人格を持った人間によって供給されることである。
先とは若干異なった問題を発生させる。
すなわち、ここには人間の行動を規定する心理的動機の問題が入り込んでくる。
第一に、右の例と同様にBとCは私的関係で補助者に有利な取り計らいをする可能性がある。
そうすることによって、BとCは補助者を巻き込んだ結託を強固にするかもしれない。
それどころか補助者の割り当ての前にBとCは結託し、彼らに従順な補助者、ないしは彼らとすでに私的な関係(この小組織の外での関係)のできあがっている補助者が割り当てられるように、非公式ルートを使って働きかけるかもしれない。
第二に、補助者は個人の噌好として、身長180センチの人間より160センチの人間を好むかもしれない。
するとBとCの結託に抗議するどころか、彼らの結託による決定事項を喜んで実行するであろう。
個人の噌好は純粋に私的なものであって、公の場でそれに基づいた行動をとることは許されないが、ここでは多数決という形式によってその行動が公的に是認されたので、噌好を表に出さずに満たすことができることになる。
この議論では身長の違いによって個人が区別されており唐突な印象を与えるかもしれないが、あくまで比職であるにすぎない。
身長という用語に他のさまざまな個人的特性を代入すれば、現実感が増すであろう。
第三に、補助者はBとCの結託に抗議するどころか、それを支持し柔順に従う強い動機も持つ。
BとCは多数派であるため、多数に従っていれば安心という実生活上の知恵が働く(特にBないしはCが「実力者」の場合はそうである)。
そうすれば、失敗や問題に直面してもBとCに庇ってもらえる可能性が高い。
右のいずれの例においても、終身雇用制と多数決とが結合して利用されている。
終身雇用制が結託を生み、結託が多数決を通して結託した人間に有利な状態をもたらす。
多数決という決定方法が、終身雇用制の下で結託の形成を促進する。
重要な問題について、結託者は必ず多数決を最終的な手段として利用したがる。
結託者には、どのような議論になっても最終的には多数決で決着がつけられるという安心感がある。
この心理的満足と多数決の結果から得られる物質的・精神的満足を求めて、私的関係においても結託のための費用を負担する。
公的関係における結託の便益は、通常この私的関係における費用負担を大幅に上回る。
結託をしない個人もいるからたとえ多数決による決定にいたらなくとも、結託は議論の過程で結託者に安心感をもたらす。
結託した多数に対して1人ないしは少数で反論することは容易でないからである。
終身雇用制は、その下にいる成員間の全面的な協調を奨励しがちなので、多数に対する反対意見や「調和を乱す」意見の表明を心理的に困難にする。
さらに、結託者は定義により複数(通常はある程度の多数)なので、数によって反対者の発言の重箱の隅も問題とすることができる。
結託者の安心感・安住感はこれらの事実に基づいている。
意見の対立がほんの少数の組織成員の間に起こることも多い。
他の大多数の成員は当該の問題に無関心な場合である。
このような場合には、ごくわずかの人数の結託で結託者の目的を達成することができる。
なぜなら、相対的に人数の多い結託者の主張は正当であるかのような印象を、多くの無関心者に与えるからである。
そもそも無関心者は、その問題に関して詳しい知識を持っていないことが多い。
かくして、ごくわずかの成員の結託によって、結託者は無関心者の賛同を獲得し、期待した結果を多数決で得ることができる。
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